力は山を抜き 気は世を蓋う
誰しも、何かしないといけないことがあるのに、気がつくと神戸大学の入試問題を解いていたという経験がおありだと思う。小生なぞ、ライフガードで酔い潰れて、目が覚めたら神戸大学の学長をしこたま暴行していたことがある。
神戸大学2009年文系数学で出題された「新しいじゃんけんの手を考案する」問題は、さりげなく界隈を賑わせた(と思う)。それをふと思い出したところから、今回の「無双じゃんけん」の発想に至った。
無双じゃんけんとは、「グー」「チョキ」「パー」「無双」の4つの手で行うじゃんけんである。
①まず、手頃な大木をなぎ倒す。
②続いて、「何か強そうなこと」を絶叫し、一般じゃんけんの要領で手を出す。
③勝者に各1点が与えられ、あいこでもそこで終わる。
④敗者は「時利あらずして騅逝かず」と詠んで滅亡する。
・「無双」の手を出したのが1人だけのとき、他の参加者が何の手を出していようと勝利する。
・「無双」の手を出したのが複数人だった場合、他の参加者が何の手を出していようと負ける。
・全員「無双」の手なら、あいこ。
割とルールはシンプルなので、もう誰か考えていそうではある。
別に勝手にやれといった感じであるが、曲がりなりにもじゃんけんを名乗るなら、やはり「公平さ」にこだわらなければならないだろうと思った。
その検証のための今回である。
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いきなり一般化して、n人で対戦することを考える。
まずは準備体操に、一般じゃんけんを考えてみよう。
じゃんけんで勝者と敗者が決まるのは、2通りの手しか出なかったときである。2種類の手の選び方が3通りなので、全員同じ手のパターンを除くと、勝敗がつくのは 6*{2^(n-1)-1} とおり。あいこはその余事象である。
では、無双しよう。
①自分が「無双」で勝つパターンは、他の(n-1)人が全てアホみたいにG,C,Pのいずれかを出したときであり、全部で 3^(n-1) とおりある。
②また、「無双」であいこになるのは全員シャシャって「無双」の手を出したときの1とおりしかない。
③だから、「無双」で負けるパターンは余事象から{4^(n-1)}-{3^(n-1)}-1 通りである。
一方、自分がG,C,Pのいずれかを出すパターンを考える。こちらは少々鬱陶しい。
①まず「無双」野郎が存在する時点で、あいこにはならない。よって、あいこに関しては一般じゃんけんと同様に考えて良いだろう。対称性から、全事象の数から先ほど出した値を引いて1/3した{3^(n-1)}-(2^n)+2とおりとなる。
別に受験しているわけではないので、厳密さにはあまり気を配らないことにする。悪しからず・・・。
②今度は負けるパターンを考える。以降、G,C,Pをまとめて「凡庸な手」と呼び、誰も「無双」を出さないパターンを「凡庸なパターン」と呼ぶことにする。
「凡庸なパターン」を除くと、負けとなるのは誰かが無双したときであり、無双する人の選び方がn-1とおり、他のモブの出す手の選び方が3^(n-2)とおりで、全部で(n-1)*3^(n-2)とおりである。
「凡庸なパターン」での負けは先ほどの値の半分の1/3で2^(n-1)-1である。これらを足したものが負けパターンの総数である。
③勝ちパターンは余事象で出る。
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これで大体欲しい値が出た。
任意の凡庸な手での勝利パターン総数は{4^(n-1)}-(n+2)*{3^(n-2)}+{2^(n-1)}-1通り、「無双」での勝利パターン総数は3^(n-1)である。
また、任意の凡庸な手での敗北パターンは(n-1)*{3^(n-2)}+{2^(n-1)}-1通り、「無双」での敗北は{4^(n-1)}-{3^(n-1)}-1通り。
この値は、なんというかその・・・どうなのか?
三人対戦の場合、「無双」はかなり勝つ。だが、考えればわかるように参加人数が増えれば増えるほど「無双」勝利は難しくなり、五人対戦でほとんど凡庸勝利パターンと同じ値になる。「無双」を出して勝たなかったら大体負けなので、五人対戦の時点でもう「無双」は不利な手になる。
よって、適正プレイ人数は3~4人である。
かといって、「無双」の手の勝利パターンの多さが必ずしも「無双」の手を出したときの勝率の高さに直結するわけではないことは容易に想像がつくだろう。「無双」の手が魅力的であればあるほど、「無双」かぶりで負ける可能性も高くなるからだ。というか、このジレンマが無双じゃんけんの醍醐味ではないか。
計算し直す。はじめから、このことを考慮して計算するんだった。神戸大学が憎い。あわよくば入学させてほしい(いや、なにものも地元愛には敵わない)。
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前提として、21XX年、人類は完全に地球上から掃滅され、プレーヤーは全員ロボットであるとする。それも、20XX年レベルのロボットである。人類がのうのうと息をしていた忌まわしい時代を思わせるということで、彼らは発見されれば即刻スクラップの運命にある。旧愛知県・旧名古屋市にある旧名古屋大学の旧文学部棟に逃げ込んだ彼らは、留年に次ぐ留年で学部在学年限を超過し、大学を追われた100年前の学生が残した手記から「無双じゃんけん」を学習し、消閑の具としている。ちなみに、彼らの目の部分には青色LEDが用いられている。
彼らは、確率pで「無双」を、確率(1-p)/3で任意の凡庸な手を出す。
はじめに、ロボH、ロボD,ロボTの3台が無双じゃんけんに興じているとしよう。アルファベットは、名大の3つのキャンパスの頭文字である。
ロボHにハッキングする。ロボHが「無双」で勝利する確率を考える(「無双」を出したとき勝利している条件付き確率でも、勝利したとき「無双」を出していた条件付き確率でもない。それらの分子である)。
これは簡単な計算からp(1-p)^2とわかる。また無双あいこはp^3、無双敗北は2(1-p)p^2。
ロボHの任意の凡庸な手での勝利確率は(1-p){1-2p+4(p^2)}/9、凡庸あいこは{(1-p)^3}/9、凡庸敗北は{(5p+1)(1-p)^2}/9。
勝利すると1点獲得できるが、敗北すると他プレイヤーに1点入るうえに、詩を詠じて滅亡しなくてはならない。他プレイヤーに1点入るのと自分が1点失うのとは実質的に同じである。
このことから得点の期待値(正確には開く得点差の期待値だが、面倒なので以降期待値と呼ぶ)を計算すると、p*{9(p^2)-15p+5}/3となった。p=0, (5±√5)/9で期待値は0になる(大体5/6と1/3)
極大値、極小値は復号同順で(5±√10)/9、大体8/9と2/9である(また、0≦p≦1であることに注意したい)。
また「無双」を出したときの得点の期待値も、p=1/3で0になる。p=5/12で、凡庸な手を出したときの得点の期待値が「無双」を出したときの期待値と同じになる。5/12とは、大体「無双」を出すモチベーションが任意の凡庸な手を出すそれの2倍である状態である。
p=1/3、つまり「無双」を出すモチベーションが任意の凡庸な手より1.5倍ぐらい高い状態を一つの基準とする。
最後の検証として、「無双」を出すモチベーションは一定ではないということを考慮に入れる。
ロボットたちは、全然裏をかこうとしたりしないド直球ロボだとする。
複数回じゃんけんを行うとして、n回戦目で出た「無双」の数をx_n、n回戦目のモチベーションをp_nとすると、適当な実数a,bを用いて p_(n+1)=(p_n)^{a(x_n)+b} と表されるとする。なので p_n=(p_1)^{a(x_1)+b}{a(x_2)+b}...{a(x_(n-1))+b}である。
モチベーションの平均値は、回数を重ねると1/3に収束する気がする(笑)。大数の法則(笑)。算術平均にすると、小生の数学リテラシーがついてこれなくなるので、幾何平均にします。つまり、 [ (p_n){p_(n-1)}...(p_1) ]^(1/n)≓1/3
また、pが1/3のとき、xの期待値は1。なので、もう x_n を全て1とみなす。繰り返しですが、ここでは厳密性とか全然懸念してません。外道数学道場です。「それらしい数字」が出ることを最優先にしています。
そうすると、(p_1)^[(a+b)^{(n+1)/2}] =1/3 と書ける。両辺底が10の対数をとると、nが十分大きいときに、左辺がめちゃめちゃ小さくなったり、あるいはバカでかくなったりすると困ったさんのパスタなので、a+b=1な気がしてきます。ただ、もしそうだとp_1=1/3で固定になってしまいますが、まあそのへんはなんか誤魔化します。
ここで、改めてx_n=0のとき、n+1回戦目の「無双」モチベーションはどれだけ増減(というか増加)するか適当に考えてみます。以降、p=1/3のときを「モチベが正常なとき」と呼びます。モチベが正常なとき、「無双」が1つもでない可能性は8/27。この次の回でも「無双」が1つも出ないということはそうそうない気がするので、その確率を適当に1/27ぐらいとします。すると、そのときのpは2/3。
よって、2/3=(1/3)^bと書ける!3の常用対数は大体0.4771、2の常用対数は大体0.301なので、bは大体0.37。都合がいいので、9/25ということにします。するとaは16/25となる。なんかすごい、ちょうどいい数字になった。
つまり、「無双」が1つもでなかった回の次回のモチベは約2/5乗される。1つしか出なかった回の次回は変わらず。2つ出た回の次回は約8/5乗。3つ出た回の次回は大体7/3乗されるだろうということである。
ただ、適当に数字作ってるので違和感は当然も当然ながら、「無双」が1つしか出なかったら、普通モチベは上がるように思われるが、上の数字ではステイしている。なので、特異的に「無双」が1つしか出なかった場合、2/5と8/5の幾何平均をとった4/5乗することにする。もうボロが出ている・・・。
モチベ1/4の状態で実際に「無双」で誰かが勝利した場合、次回のモチベは 約1/3になる。もう一度だれかが「無双」勝利するとモチベは約2/5で、これは先ほど出した”凡庸な手を出したときの得点の期待値が「無双」を出したときのそれに並ぶようなモチベ”である5/12とほとんど同じ値である。
つまり、正常なモチベの状態で誰かが「無双」勝利した次の回は、どの手を出しても得点の期待値は同じ。また、どの手を出すモチベも同じ状態で誰かが「無双」勝利すると、次の回モチベは正常化される。
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この無限ヤマアラシゲームであるが、 なんか・・・よくできてるな!
それにしても、最悪に皮肉なのは、クソほど計算して導いたこの前情報を知って無双じゃんけんに臨むと、この情報は全くの嘘になるのである。前提が変わるからである。
では、今の今まで、一体拙者は何をしていたのか?
神戸大
諸悪の根源
許すまじ (辞世の句)