日進ムーンウォーカー

Alien to people, Behind people, Closed to people, Distant from people, Eliminate me Fujita

クロネッカーのデルタ

クロネッカーのデルタとは、δ(i,j)で表され、i=jのとき1を、そうでないときに0の値をとると定義された二変数関数のことである。行列・ベクトルや群について説明する際にちらほらでてくる数学の妖精である。

 

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拡張・一般化されたクロネッカーのデルタはもはやイデア界へ召され、小生の数学リテラシーでは全く太刀打ちできない。

 

高校数学に「露骨に不連続な関数」はあまり出てこないイメージがある。一方のこの狂ったデルタを三次元空間で表すと、宙に直線が浮遊するモダンな趣のある(?)光景が現れる。

そこで、この浮遊直線くんに伸びしろを見た。この装置を組み込むことで、もっと邪悪な関数が作れるに違いないと。

恨むらくは、伸びしろを伸ばしきれない己の無知。だが、寧ろ「素人でも楽しめるクロネッカーのデルタ」というところを強調していこうではないか。

 

 

 

 

まずは簡単な工作から。

 

(1)デルタに細工する

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0と1がひっくり返った。あるいは、シンプルに 1-δ(x,y) でも同様。正直これだけでもう楽しい。でももっと楽しくなる。

 

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fn(x,y)はx=yかつnが奇数のときとx≠yかつnが偶数のとき1を、それ以外のとき0をとる。

 

 

 

(2)ガウス記号と組み合わせる

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デルタの中の右のxを囲っている、倒立した門がまえみたいなカッコはガウス記号である。ガウス記号は「カッコ内の数を越えない最大の整数」を表す。

つまり上の式のデルタは、xが自然数のとき1を、そうでないとき0の値をとる。そこにxがかかっているので、式はxが自然数でないとき問答無用で0になる潔癖関数である。

 ガウスクロネッカーは、ワトソンとホームズ(あるいはクリック)にも劣らない名コンビだ。

 

 

(3)和、極限を組み込む

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ガウス記号の応用。極限などというしゃれた代物でパフォーマンスしている。

デルタがその本領を発揮するのは、シグマとのコンビネーションにおいてである。デルタとシグマの合わせ技を「DS」と呼んでみる。

xが有限小数のとき、式は極限値をもち、その値は小数点以下の桁数である。

 

調べていると、変数が有理数無理数かによって1または0の値をとる「ディリクレの関数」なるものを発見した。

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おお、さすが数学者!素人を脅すのが上手い。 

 しかし、ディリクレにできてクロネッカーにできないことはない。

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要はこう。xが分数表示可能なら、十分大きいnに対して、x*(n!)は整数となるからだ。ただ、ディリクレが示した式がアリガタイのは、それが連続関数の極限で示されている点である。競歩の選手に普通に走って勝って喜んでるのと同じである。

 

 

(4)絶対値記号を導入する

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デルタの振る舞いを考えると、xがn以上なら1、未満なら0となる。

つまり、この式はxがnを越えた途端、第二項がxの成長を全力で阻み打ち消しにいく出世妬み関数である。

 

 また調べていると、変数の正負で1または0の値をとる「ヘヴィサイドの階段関数」なる関数を発見した。これはクロネッカーのデルタの拡張であるディラックデルタ関数をマイナス無限からxまで積分した値と同じになるという。数学者たちの名前の主張が強すぎて全然内容が入ってこない。でも、なんか賢くなった気がする。

 

 

(5)和と二項係数を組み合わせる

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明らかにDSである。

数B履修者のうち一定数が、序盤で襲いくる「和の和」に食われて死ぬ。シグマを並べると、なんとなく「弱」という字に見えてくる。己の弱さを看破された数弱は、「理解した気になってるだけで、実は何も理解していないのではないか」と無間の闇に落ち込み発狂する。シグマを並べることが禁忌である所以である。

二項係数の対称性を利用して、偶奇で値が切り替わる関数を作った。

何が起こっているかわかりにくいので、雰囲気で解説を試みる。

n=3を例にとる。内側のシグマを展開すると4つの項が現れる。外側のシグマを展開すると項1つにつき4つの項が新たに出現する。よって項は16個出現する。デルタが1となるのは、pとqが以下のように対応するときである。

ここで、qが奇数のとき、デルタの符号が変わる。絶対値が1のデルタが偶数個になるようなn(すなわち奇数)では、符号の変わった悪いデルタが善良なデルタを打ち消して荒野と化す。

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一方nが偶数のとき、1種類しかない項が現れるので、こやつを打ち消す項がない。

 

こんな全自動卵割り機的なガラクタマシンを作ってしまったが、似たヤツでもっとシンプルなのがある。

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先の仰々しい関数を生み出したのは徒労だと判明した。

一番上の関数は、1のn乗根に応用できる。

真ん中の関数は、nとmの偶奇が一致すると1,しないと0となる関数である。m=2nなどとすればほぼさっきの関数である。

一番下の関数は、少しセコい。式というか、数学記号で表しただけという感じ。gcd(s,t)は、sとtの最大公約数を表す。2との最大公約数が1であるxは約数に2を持っていないのであり、奇数である。よって、奇数なら1、偶数なら0となる。

 

  

 

(6)数列に組み込む

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pとqをたくさん並べたのは大罪だった。max(a,b)とは、aとbのうち大きい方という意味で、min(a,b)はその逆である。ちゃっかり(1)が応用されている。

式を睨んでいても仕方ないので、具体的な値を出してみる。p>qを仮定すると、p_2=p-1、q_2=q+1。p=qでは、それ以上変化しない。

 

おわかりだろうか・・・?p_nとq_nは、互いに接近しあう。それも、1ずつ。健気だ・・・。数式に「健気だ」という感想をもったのはこれが初めてだ。

しかし!p=q+1とすると、今度は追い抜き追い抜かれを繰り返し、未来永劫値が一致することはない。つまり、pとqの差が偶数なら適当なnで値が一致し、差が奇数ならそのようなnは存在しない。

宇宙の歴史をアフラ・マズダとアーリマンの長い戦いに喩えるゾロアスター教にちなんで、p_nを「アフラ・マズダ数列」、q_nを「アーリマン数列」としたい。ただこうすると、アフラ・マズダが永遠に悪神に勝てない世界線が生まれてしまう。そんなときは、ニーチェに殺されてもらうしかない。

 

 

(7)方程式に組み込む

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ラストは少し異質な方程式をもってきた。yとxが交互に現れるというプチ配慮もしてある。

上のような式を満たすのはどのような(x,y)だろうか?

受験期、我々はもっと汚い関数を微分したり積分したり、平方完成したりしてきた。こんな「どっちが大きい?」「同じ?違う?」程度の問題全くわけない。

全くわけないのであればわざわざここで取り上げはしない。解いてみる。

 

2種類の場合分けが必要になる。デルタに関係してくる「x=yか否か」の場合分けと、minに関係してくる「xyとyの大小」による場合分けである。後者の場合分けからしていく。

・xy>xのとき → ①...x>0,y>1 ②...x<0,y<1

・xy=xのとき → ③....x=0 ④...x≠0,y=1

・xy<xのとき → ⑤...x>0,y<1 ⑥...x<0,y>1

この各々のパターンについて、前者の場合分けをしつつ探っていく。x=yの場合は、番号にダッシュを付して区別する。

①→y=max(0,x)となる。x>0だが、y≠xなので適する(x、y)は存在しない。

①’→y=max(1,x)。y=xなので、1>xのとき、1=yとなってしまい不成立。x>1において成立

② →式は①と同様。x<0より、y=0で成立

②’→式は②と同様。x<0であるが、y<1より、式は不成立。

③、③’→y=max(δ(y,0),0)となる。y=0とすると、同時にy=1となってしまい不成立。y≠0とすると、同時にy=0となってしまい、やはり不成立。

④、④’→1=max(δ(x,1),x)となる。max内の二項のうちどちらかは1でなければならず、またどちらもx=1でのみ1となる。よってx=1で成立

⑤→y=max(0,xy)となる。xy≧0とすると、x=1、y≧0で成立。xy<0とすると、y=0でなければならないが、仮定に反するので不成立。

⑤’→y=max(1,xy)。xy=y^2である。y^2≧1のとき、y=1で成立。y^2<1のとき、y=1となるが、仮定に反する。

⑥→xが負、yが正で、ともに0ではないので、式はy=0となるが、これは不成立。

⑥’→式はy=1となるが、y>1なので不成立。

 

以上より、前掲の式は

(i) x=y>1

(ii) y=0>x

(iii) x=y=1

(iv) x=1>y≧0

のときに成立することがわかった。いま何を仮定していたか一回でも忘れると富士の樹海である。羅刹方程式だ。

 

xy平面に図示するとこうである。

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突然の手書きの温かみに耐えてほしい。
猛烈な場合分けラッシュをこなした後に残されたものは、こんなマリオのステージみたいな半直線と線分のコンポジションだった。

だが考えてみて欲しい、上の式とは違う形式で、このような関数をはたして描けるか?こんなつかみ所のない形をxy平面に表現できるか?

この関数こそ、世界に一つだけの関数ではないか?

 

いや。小生は「世界に一つ」とか、「世界一」とか、大逸れた表現を然るべからざる場面で使うことには非常に敏感な小人である。頑張れば、こんな関数作れるんではないか?

と励んだ結果が、こうである。

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この刹那的な関数は、心に五寸釘大のささくれを残して去っていった。

 

 

 

見込んだとおり、邪悪砂埃くんは主に優秀なフィルターとして八面六臂の活躍を見せてきた。偶奇、その一致不一致、整数と小数、ある数以上と未満、約数にある数を持っているか否かなど。さらにふざけたブートレッグ関数の可能性を知らせてくれるトリックスターだった。

誰の何の役にも立たない営みは、潔くてすがすがしい。そういうのにうつつを抜かしているうちに死にたい。