日進ムーンウォーカー

Alien to people, Behind people, Closed to people, Distant from people, Eliminate me Fujita

筆不抄(6):言わなくていいことを言わなかった後悔について

私は現在そこそこ名の知れたチキンナゲット屋でアルバイトをしているが、時々デリバリーに駆り出されることがある。

傾向として、玄関先で配達員の対応をする人々は無愛想なことが多い。理由をあれこれ考えることも出来るが、配達員が真正ゴミクズ大学生であることを見抜いているとは思えないので、おそらく将棋倒しピザなど他飲食店の出前を取ったときも同様に配達員に淡泊な対応をしているに違いない。ただそれはあくまで傾向であって、そこそこ懇ろに対応してくれる方も一定数いる。

ある日注文のあったお宅へ伺ったとき、小学生ぐらいの男子が玄関先で対応してくれた。私はテンプレを口から垂れ流しながら商品をお渡しし会計を済ませたが、私の去り際に少年が、「お仕事頑張ってください」などという、真正ゴミクズ大学生にはおよそ勿体ない激励の言葉を仰られた。面食らった私はヘラヘラしながら礼を言うことしかできず、情けなくて、膝をついてその場に崩れ落ちそうになった。

しかしそれは大した問題ではない。一体何の縁か、数週間後にまた同じお宅にデリバリーすることになった。これは割と珍しいことだ。だが、薄々勘づいてはいたものの、かの殊勝な少年のお宅だと気づいたのは他でもない彼が玄関先に現れたそのときだった。

驚きで、心中「ご無沙汰してます」と絶叫しながらも、結局私はテンプレを垂れ流して対応した。余計なことを言って「あなたなんか慣れ慣れしいですけど、真正ゴミクズ大学生なんですか?」と真実に斬り込まれる恐ろしさに、アドリブへ走れなかった。そして、やはり少年は例のねぎらいの言葉を口にされた。来るな、と分かっていたにもかかわらず、私は私で、またヘラヘラしながら礼を言ってしまった。もう私は情けなさで、膝から崩れ落ちた。「お仕事頑張」れそうになかった。

何か気の利いたことを言えばよかった。何か、何でもいいから言えばよかった。少年にとって労働者への激励が当たり前のことならまだいいのだが、少年のかのアツい言葉を血の通わないテンプレマシーンの私がスルーしてしまうことで、少年が「言う必要のないことは言わなくていいのか」と合点してしまうことだけは絶対に避けたい。あるいは、私が少年のことを”ワンオブゼム”だと思っているとも思われたくない。君は今のところオンリーワンだ。

そしてそれ以上に、このちょっとした「奇遇」を、特になんとも思ってない素振りをしてしまったことがダサくて、口惜しくてたまらない。

同時に、これがデジャヴであることに気づいた。以前、名古屋市昭和区に所在地をおく東海エリアを代表するカトリックのミッション系私立大学の横のコンビニでアルバイトをしていたことがあったが、ちょうどセンター試験の日の朝方に制服の高校生が来店した。これは明らかに受験生だと気づき、何か応援の一言が言えたらと思ったが、結局何も言えなかったときの後悔がよみがえる。地歴公民2科目選択ということは、少なくともそこそこにはちゃんとやってきた人だったわけで、なんなら今や後輩となっている可能性もある。

「ある人が手紙を受け取ったが、その日はイイ感じに雪が降っていたにも関わらず、差出人が手紙でそのことに触れなかったことに憤慨して、『ダサいお前に返事などない』と返した」という徒然草の話を思い出す。テンプレマシーン配達員なら、もうドローンでいい。少年が徒然草的な精神に生きていて、受け取ったばかりのホカホカのハンバーガーを投げ返してこなかっただけ良かった。(1433字)

 

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