日進ムーンウォーカー

Alien to people, Behind people, Closed to people, Distant from people, Eliminate me Fujita

筆不抄(15):最悪な歌について

予め言っておくと、本当に心が荒んでいる人以外は聞いてはいけない。

「聞かないほうがいい」ではない。「聞いてはいけない」。

 

 

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Pink Guyが一体何を思ってこの曲を作ったのかは分からないが、少なくともGuyが私たちと同じ目をしていないことだけは確かである。

誰かがしろと言ったわけでもないのに、それは親切にも、妙に歌詞が聞き取りやすい。日本語のリスニング教材かと思われる(絶対に、否)。我らがマキシマム・ザ・ホルモンもそれなりに猥褻な曲を作っていたりするが、彼らのそれは歌詞が聞き取れないのでほとんど公序良俗に反さないのだが、Guyの場合、タイトルの時点で既に言い逃れできない。

理性を完全に喪失した中学生の絶叫のような歌詞であるが、中学生にはまずこのような”浮遊感”にあふれたコラージュ的な歌詞は書けない。徹頭徹尾、タチの悪い(ピンクの全身タイツの)悪霊に憑かれた男性のうわごとのような音楽である。

それなのに、弁解するわけではないが、これを聞いても決して歌詞にあるように「ヤリタイナ~」とはならない。聞くときはいつも逆エクソシスムの現場なのだが、降霊なさるのは大概「ヤケクソ」を司る悪霊なのである。だから寧ろ、無性に暴飲暴食したり、所構わず壁にヘッドバットしたくなる。

この犯罪的なリリックを乗せる邪悪なビートに中毒性があるため、不本意にも何度も聞いてしまうのだが、絶対に、何が何でも自室の外で口ずさんではいけない。不思議に歌いやすいので、何気なく歌ってしまいそうになるが、その場合、直ちに顎関節へ光速で信号を発して舌を噛み切り、それで死んだ方がよほど良い。(よりによって)Guyがこのような音楽センスに生まれたことを、私はいかほど憎たらしく思ったことか。

 

私に言わせてもらえば、この曲はもはや猥褻ではない。正確には、この曲は性について歌ってはいない。

Guyのこの曲は尋常じゃないほど不快なのでそう思いがちであるが、あくまで性はGuyに"発狂できる場所"を与えることに徹しているように思われる。イカれたテロリストが「とりあえず偉いヤツを殺してェ」と一国の首相を殺害した事件について「あのテロリストは政策に不満があったのだろう」などと解釈するのと同じ過ちではなかろうか。

「それを卑猥とか猥褻とか言うのだ」と言われればそれまでであるが。

本当の意味で猥褻な曲というのは、以前に記事で書いた女性ラッパーのいくつかの曲であるとか、何かで聞いたMINMIの「#ヤッチャイタイ」やその類いの曲であるとかがそうであると思うのである。それらはあくまで、多かれ少なかれ性を破廉恥に歌っている。

だから、非常に不機嫌な私が誤ってこの曲を口ずさみながら、誤って東山線女性専用車両に乗車してしまったときも、ホーム柵でギロチンの刑に処したりしないでほしいのである(そんなシチュエーションは考えるだけでもおぞましい)。

 

ところで、タワーレコードは「No Music, No Life」というスローガンを社訓の如く謳っている。「"音楽があることで気持ちや生活が豊かになる"という事を、店頭やオンラインをはじめ全活動を通し、体現していくこと」がタワレコスタッフの使命なのだそうである。

もし本当に「No Music, No Life」とタワレコスタッフの皆さんが信じておられるなら、指摘しておきたいことがある。

実存主義を掲げるニコライ・ベルジャーエフは、デカルトの「われ惟う、故にわれあり」に対して、「われ」は根源的であり、他の何者からも導かれないとして、「われあり、故にわれ惟う」のだと主張した。

「音楽なくして人生なし」に対しても、同様の「転回」を適用できると思う。つまり、
「No Life, No Music」である。何ら特別なことを言っているのではなく、寧ろベルジャーエフの主張のように、聞くところ"当たり前過ぎる"ことを言っている。もちろん、死人は耳が聞こえないということではない。音楽が人生を豊かにする以前に、人生が音楽を豊かにしているのである。音楽と人生は相互に作用し合う不可分な関係を持続するが、初動は常に人生であり、同じ音楽であっても時々で人生に対して違った風に立ち現れるのは、人々の経験の通りである。この主張の一つの重要な帰結として、「それだけで素晴らしい音楽」などというのはとんだ胡散臭い代物だということになる。

 

冒頭のビートを耳にしただけで蕁麻疹が出てしまうという繊細な方でも、この「セックス大好き」を不思議と聞けてしまうときが、生きてるうちにきっとある。きっと神経がささくれだっているので、壁という壁にヘッドバットした後で、自分を慰めて、否、労ってほしい。(1933字)

 

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