日進ムーンウォーカー

Alien to people, Behind people, Closed to people, Distant from people, Eliminate me Fujita

筆不抄(34):好きな食べ物はしらたきです

「好きな食べ物はなんですか?」という質問は、とりあえず会話を続けたいときの常套句みたいなところであるので、この質問で会話を途切るような人間は唇を縫い付けて点滴で生きていく路線に人生を切り替えたほうが良い。しかし、こう言ってしまうと、私も点滴予備軍になってしまう。これだけ強気に出ておきながら、この質問にテキパキ答えられる自信はあまりないからである。

というのは、好きな食べ物がないわけではない。そうではなくて、ほとんど同率1位なのである。

例えば、油淋鶏は好きである。しかし、タコライスがあるなら、タコライスでもいい。ボロネーゼがあるなら、そちらでも全然構わない。油淋鶏をさしおいてタコライスを選ぶ理由もなければ、タコライスをさしおいてボロネーゼを選ぶ理由もなければ、ボロネーゼを差し置いて油淋鶏を選ぶ理由もない。せいぜいその場の気分である。

 

しかし、そんな適当なことを言っていると、口を縫われてしまう。そこで、私は”好きな食べ物”を決めることにした。

しらたきに。好きな食べ物はしらたきです。

 

理由を端的に述べると、「しらたきは大抵鍋で他の具と一緒に振る舞われるが、その”鍋の中で1位”だから」である。しかも鍋の日は、大抵鍋しか食わない(他の料理は出ない)。そのため、しらたきを食べるときは常に「机の上で1位」になっている。

そう、油淋鶏、タコライス、ボロネーゼの問題点は、これらが並び、比較されることにあったのである。しらたきは地区大会でボロ勝ちしておきながら全国大会には出ないエリートチキンだから(しらたきをチキンと呼ぶのには違和感があるが)、選抜されたのである。井の中で無双するあまり、大海をも制したのだ。

 

しかし、このチキンこんにゃくにはライバルがいた。それは大葉の天ぷらである。

この揚げたハッパが私を悩ませたのは、ずっと食べたいと思っていながら、初めて食べたとき以来ありつけていないからである。

大葉の天ぷらは、ちょっとイイお店の天ぷら盛り合わせみたいなヤツにしれっと紛れ込んでいるのが常である。だから、大葉のてんぷらを頂こうとしたら、ちょっとイイ天ぷら屋に足を運ばなければならない。その機会がない。

確かに他にも、割と長い間食べたいと思っている料理はある。例えばうな丼とかそうである。そうであるが、回転寿司のあなごとかで”うな丼方面”の欲望を器用にセーブしてきたので、うなぎ切れで発狂するとかいう事態は防げている。しかし、”大葉の天ぷら方面”の欲望のキーパーを、私は未だ突き止められていない。この故に、大葉の天ぷらはしらたきと決勝を戦ったのである。

 

 この決勝戦を振り返ってみて、しらたきの”もう一つの勝因”に気づいた。それは、メインディッシュではないことである。

部活を引退して久しい私といえども、さすがにしらたきで腹は膨れない。そこがミソに思えるのである。つまり、しらたきを食べるとき、純粋にしらたきを食べたいから食べている。この純粋さが、腹を膨らすという使命を幾分か帯びた油淋鶏、タコライス、ボロネーゼの面々に追い打ちをかけた気がする。

 

直感的に好きな食べ物と、あれこれ考えて導き出した好きな食べ物は、意外と違ってくるかもしれない。おそらく”正しい”のは前者だが、説明しやすいのはきっと後者である。人々は、口を縫われないうちに後者についても見当をつけておいたほうがいい。

ちなみに、自分の食の嗜好について饒舌に語りすぎたため、逆に口を裂かれて都市伝説になってしまった人もいるらしい。人の口を縫ったり裂いたりする人は避けたい。